『生きるための自由論』

生きるための自由論 (河出ブックス)

生きるための自由論 (河出ブックス)

大澤真幸氏が2010年10月に上梓した単著は二冊を数える(『THINKING「O」』も含めると三冊)。一方の『量子の社会哲学』を「科学史/社会哲学 meets 量子力学」と呼ぶならば、他方の『生きるための自由論』は「政治哲学 meets 脳科学」とでも呼ぶべき内容を含んでいる。全体的に見ると、本書は二本の論文「〈自由〉の所在」、「連帯の原理としてのリベラリズム」と、補筆パート「一つの壁から無数の壁へ」によって構成されており、2008年に出版された『〈自由〉の条件』の後継書とでも言うべきものだ。

二つの論文に共通するのは、脳科学が提起する「心脳問題」やリベラル・ナショナリズム憲法パトリオティズムといった社会構想上の諸理念のあとで、いかにして「他者の審級」を回復しつつ「自由」の圏域を確保するかという課題である。筆者が定義する「自由」とは、いわゆる「第三者の審級=超越的な他者」との関係の中で、または「第三者の審級が撤退した後の身近な隣人=他者」との関係(連帯)の中で生まれるものだ。

一本目の「〈自由〉の所在」は、ベンジャミン・リベットに代表される脳科学の成果を批判的に検討することによって、自由(意志)を社会としての脳と、脳の外部の〈外的社会性〉に見出す。二本目の「連帯の原理としてのリベラリズムは、国民―国家を基盤とするリベラリズムではなく、自らの文化への否定性=アイデンティティへの違和=「私≠私の公理」を徹底した真に普遍的なリベラリズムによる連帯を模索する。「付」パート「一つの壁から無数の壁へ」は、ベルリンの壁の崩壊以後に生じた無数の壁≒クラスタ島宇宙の乱立と崩壊をたどる内容であり、その行方はサブプライムローン金融工学に隠された「壁」へとたどり着く。

また、今月(2010年11月)には新たな単著『現代宗教意識論』が上梓予定とのこと。