言語が堕ちるとき

Fallen Languages: Crises of Representation in Newtonian England, 1660-1740

Fallen Languages: Crises of Representation in Newtonian England, 1660-1740

王政復古期の演劇研究に始まり、王立協会周辺の言語危機(本書)、次著の東洋表象論と、十七世紀英国の領域横断的な研究を次々と発表しているロバート・マークリー。
十七世紀科学革命の結果として「客観的」で「正確」な言語が誕生したのだという安易な進歩史観批判からはじまる。王立協会を中心とした「表象」の歴史はより対話的なものであり、そこには「不一致」、「ギャップ」、「カオス」といった理論の空隙の存在を前提とした「表象の危機」があるとのこと。理論としては空転しがちな「表象不可能性」の実証的な歴史研究とでも言うべきか。

ロバート・ボイルが聖書や神学の言語に依存していることを考えても、単純に実験科学と宗教を分離できないことは一目瞭然。ウィルキンズの普遍言語運動にしても、十七世紀の政治的危機を抜きにしては考えられず、「リアルな言語」そのものがディスコミュニケーションを助長する社会的なノイズを排除することによって成立しうる空理であった。ベーコンから王立協会への知の系譜で、データを統合する磐石なシステムが継承されていったと決め付けるのは余りにも楽観的な見解であり、これに続く十八世紀のニュートン主義を含めて、いたるところに「表象の危機」が散在している。