『視覚と近代』

視覚と近代―観察空間の形成と変容

視覚と近代―観察空間の形成と変容

この本は面白い。「視」のモードの近代化を科学器具や視覚文化の発展を見据えながら、遠近法や自己観察から都市観察に至るまでの観察者の変容を多角的に論じている著書。議論は美術史・思想史・科学史寄りかもしれないが、文学研究にも十分応用できるはず(言語化された視覚をどうするかという問題は残るが)。英国初期近代の劇場が遠近法を巧みに用いた大衆的な視覚装置であったことはよく知られているし、スウィフトなどは望遠鏡を両側から見ることによって『ガリヴァー旅行記』の「小人の国」や「巨人の国」の着想を得たという。視線を内面化した上での自己観察などはロマン派以後の精神構造と無関係ではないだろうし、ヴィクトリア朝期の作家などはまさしく都市の観察者と呼ぶにふさわしい。