『阿片常用者の告白』

阿片常用者の告白 (岩波文庫)

阿片常用者の告白 (岩波文庫)

読者がご存知かどうかは知らないが、多くの子供は、恐らく大抵の子供は、言わば暗闇の上にありとあらゆる幻影を描く力を持っている。子供にとっては、その力が単に眼の機械的な変調である場合もあるし、幻影を随意に、あるいは半ば随意に、退散させたり喚びだしたり出来る場合もある。この事について、嘗て一人の子供に問い質したところ、その子はこう答えたものだ、「ぼくが幻にむかってゆけというと、いってしまう。でもぼくがこいといわないのに、やってくることもあるよ」。(150頁)