『英雄崇拝論』

On Heroes, Hero-Worship, and the Heroic in History (Dodo Press)

On Heroes, Hero-Worship, and the Heroic in History (Dodo Press)

カーライルの『英雄崇拝論』を読了。以下、気になるとこだけメモ。
Lecture 1 「神としての英雄」
古代宗教は欺瞞もしくは寓意より生じたのではない。かつては、自然=超自然的。しかし、現在は違う。なぜか。

It is by not thinking that we cease to wonder at it(Nature). Hardened round us, encasing wholly every notion we form, is a wrappage of traditions, hearsays, mere words.

古代から英雄崇拝の心情が根幹にあったはず。スカンディナヴィアとオーディンオーディンが神格化される過程を論じる中、カーライルの思考では歴史が一つの光学装置と化す。

What an enormous camera-obscura magnifier is Tradition! How a thing grows in the human Memory, in the human Imagination, when love, worship and all that lies in the human Heart, is there to encourage it.

マルクスも歴史の比喩としてカメラ・オブスキュラを(カーライルとは異なる文脈で)用いているので、カーライルの光学系用語は気になる。

The colors and forms of your light will be those of the cut-glass it has to shine through.


Lecture 2 「預言者としての英雄」
預言者マホメットイスラム教=ペテンと決め付ける懐疑主義を非難。カーライルのオリエント的な知識の背後にも複数の東洋学者の存在がある。『オリエンタリズム』にも登場したフランスのサシや『コーラン』を翻訳したイギリスのセイルなどなど。


Lecture 3 「詩人としての英雄」
ラテン語のvatesには「予言者」と「詩人」の意味がある。詩聖としてのダンテとシェイクスピアシェイクスピアの言葉=“No twisted, poor convex-concave mirror, reflecting all objects with its own convexities and concavities; [but] a perfectly level mirror”。この時代、マニエリスムや魔術とシェイクスピアは乖離していく傾向にある。そして、ここから国民詩人としてのシェイクスピア像とそれに伴うイングリッシュネスの形成が前景化される。シェイクスピアは代替不可能な存在にして、王でありかつ象徴。それゆえ、これは答えが用意された質問か。

Consider now, if they asked us, Will you give up your Indian Empire or your Shakspeare, you English; never have had any Indian Empire, or never have had any Shakspeare?


Lecture 4 「牧師としての英雄」
新時代の改革者としてのマルティン・ルタージョン・ノックス。両者とも宗教改革で決定的な役割を果たした人物。ノックスによるスコットランド宗教改革は馴染みが浅いが、ピューリタン革命とも密接に関係してくるので押さえておかねば。


Lecture 5 「文人としての英雄」
文人もまた同時代の預言者として語られる。

He[man of letter] is the light of the world; the world's Priest;-guiding it, like a sacred Pillar of Fire, in its dark pilgrimage through the waste of Time.

主に採り上げられるのはジョンソン、ルソー、バーンズの三人。かつての英雄は演壇から自らの声で語ることによって(カーライルの言によれば)真実を伝えたが、現代に生きる文人には印刷術という有能なメディアが味方についている。


Lecture 6 「王としての英雄」
クロムウェルとナポレオン。 当然と言われればそれまでだが、言及される英雄は全て男性。カーライルにとってみれば彼等は全て「父」たる存在。余談だが、カーライルってヴォクスホール・ガーデン(当時のロンドンの娯楽場)がよっぽど好きだったらしい。