Laurence Sterne and the Visual Imagination

Laurence Sterne and the Visual Imagination

Laurence Sterne and the Visual Imagination

ロレンス・スターンとウィリアム・ホガースを二本柱にしているが、従来の研究のように二人の接点を論じているわけではない。むしろ著者はスターンとホガースの間にはいわゆる芸術家同士の交流がなかったと断定している(『トリストラム』の挿絵の依頼は第三者経由だった事実もある)。その代わり、スターンの“verbal pictorialism”がいかなるものだったか、そしてスターンのテクストからいかなる挿絵が生み出されていったかを実証的に論じてゆく。
第一章はスターンと絵にまつわるネタを広範に集めた序論。『トリストラム』における人物描写がまるで絵を描くようであること、ホガースのこと、フィールディングやスモレットと比べるとスターンの描写は読者の視覚的想像力に訴えていること、画家としてのスターンや愛人エリザ・ドレーパーの肖像を持ち歩くスターンのこと、それでいて実はスターンの日記や手紙にほとんど絵画に関する言及がないこと、などなど。

第二章は「テクスト・想像力・絵」という基本的なテーマに問題を絞って、アルタミラの洞窟壁画から話が始まる。その後、イメージと文学テクストとの関係をいささか古臭い論者を援用しながらたどっていき、最終的にはホガースが描いた「説教するトリム」の図版とスターンの文言を比較分析する。

第三章は「説教するトリム」のイラストの変遷をたどる(1883年-1995年)。ヴィクトリア朝のキャラクター重視を反映したイラストやコスチューム・プレイ風のものから、モダニズム期の実験的なイラスト、二十世紀の漫画・写真風のイラストまで幅広い。

第四章は『センチメンタル・ジャーニー』とマッケンジーの『感情人』のイラストを中心に、“sensibility”や“sentimentalism”がいかにヴィジュアル化されてきたかを辿る。著者によれば、“Civic”、“Domestic”、“Pathetic”、“Erotic”の四つに分けることができるらしい。

第五章は感傷主義のイコンとなったマリア表象(聖母の方ではなくて、スターンの作品に登場する方)を辿る(1773-1888)。萌えキャラが立つプロセスと酷似している。スターンのテクストから二次創作が相次ぎ、ポプラの木、俯く女性、お供の犬がいわゆる「泣き」要素の基本仕様として確立。しかし、ヴィクトリア朝期に至り感傷主義が衰退する中で、マリアの表象もラファエル前派的なものへと変貌していく。

四七個もの図版が入っていて飽きない内容。また、オマケとして1760年から2005年までに刊行されたスターンの作品のイラストのカタログが付いている。これにニュー・アート・ヒストリー以後の視座を導入するともっと面白いかもしれない。